研削盤研削盤が象徴する
オークマのオンリーワン技術

50年前に納入された研削盤の修理依頼

加工の最終工程を担う研削盤は、工作機械の中で最も高精度な部品加工・組立が求められます。その心臓部の主軸ユニット組立や修理に30年以上携わり、トップマイスターの称号である「現代の名工」にも選ばれた川村勇次。そんな彼には忘れがたい思い出があります。
ある日、川村のもとに50年以上前に納入され、今では本社ギャラリーに機械遺産として展示されている「GPB形円筒研削盤」の特殊仕様機の修理依頼が持ち込まれました。分解診断するとメンテナンス不良で焼き付きなどの損傷が激しく、大半の部品交換が必要です。しかし、部品の在庫どころか図面もなく、仮に修理を引き受けても1年以上かかることから川村は「修理不可」と判断します。
ところがお客様は「この機械は他では代替できない重要な加工を担っている。どれだけ時間と費用がかかっても良いから直してほしい」と諦めません。結局、川村は部品を一から作製し、持てる知識・経験・技能をすべて注ぎ込み、製造部門の全面協力を得て1年半かけて機械を再生したのです。お客様の感激は尋常ではなく、川村自身も喜びと達成感に浸りました。

工業製品の品質向上に貢献するオンリーワン技術

門形マシニングセンタ 累計出荷1万台達成

お客様が1年半待ってでもオークマの研削盤を手放さなかったのは、強い保持力と精緻な砥石回転精度で重研削も高精度加工もこなす軸受(大隈式非真円平軸受)に代表される技術力に魅了されたからです。
この軸受は “くさび形油膜圧力” で砥石軸を浮かせて保持する動圧式のため、金属同士の接触がなく、メンテナンスを怠らなければ半永久的に高性能を維持できる革新的な構造です。
1954年に開発したこの軸受によってオークマ研削盤の加工精度は飛躍的に高まり、工業製品の品質を左右するベアリングやリニアガイドなどを製造する精密部品メーカーが次々にオークマ機を導入。これにより日本の工業製品の品質も大幅に向上しました。
しかし、この特別な軸受の製造には極めて高度な技術・技能が必要です。たとえば仕上げ加工では、端面を受けるスラスト軸受をキサゲ作業で段差1µm以下のくさび形状をつけ、主軸を包むラジアル軸受はラップ作業による鏡面加工が不可欠です。
さらに組立工程では、軸径と軸回転数に最適な「くさび角」と「すきま量」の調節を伴う精密組立ができなければ、高い回転精度や剛性が得られません。
こうした重要工程を支えるのが、豊富な経験と高度な技能を身につけた熟練工のノウハウです。

何とかしたい、やってみる、
あきらめない

2007年、オークマの研削盤に大きな変革がもたらされました。砥石軸の回転数と回転精度を向上するため、従来のベルト・プーリ駆動から砥石軸にモータを内蔵するビルトインモータ駆動への転換です。
これによって砥石軸と軸受保持部が一体化していた構造が、軸受保持部が分割されて各内面の中心を揃える芯出し作業が必要となり、ユニット組立の難易度は増大します。
機械の試作段階で、組立部門から「構造が複雑になり、芯ずれを抑えられるか心配だ」という声が上がりました。これを耳にした川村は「何とかしたい」という気持ちが湧き上がり、「まずやってみよう」と同僚に呼び掛け懸命に解決策を探りました。そして、試行錯誤を重ねた末に、熟練技能者の感覚頼りだった寸法精度を数値化し、芯出しと修正作業をマニュアル化。その過程で、軸受内面に挿入して寸法の基準とする器具「アタリ棒」を考案。寸法管理によって特殊技能を確実に伝承して安定生産へ導く仕組みを構築したのです。
こうして砥石軸のビルトインモータ化は軌道に乗り、回転精度は0.02µmから0.01µm以下へ、実用最高回転数は毎分2,000回転から6,000回転に向上し、オークマ研削盤の価値は一段と高まりました。
川村はこの時の経験を踏まえて「簡単にあきらめないことが何より大切」と説きます。これこそがオークマに脈々と息づくクラフトマンシップです。

一隅を照らす仕事を心掛け、
次の世代へ技をつなぐ

いま、川村は「ものづくり組立道場」で新入社員を対象に、オークマのものづくりに対する考え方や基本作業を指導しています。そこでは自ら歩んできた道のりに重ね合わせ、仕事に向き合う心掛けも伝えています。
「技は自分の宝であり、活力の源になります。しかし、努力しなければ身に付かず向上もできません。そして、一人一人が自分の持ち場で磨いた技を発揮することで、全体が強い輝きを放ちます」。これは仏教が教える『一燈照隅、万燈照国』(一つの灯りが照らすのはわずかな範囲でも、それが集まった万の灯りは国全体を明るく照らす)という考え方で、川村の信条となっています。
それは数多くの部品で構成される工作機械のものづくりにも当てはまり、オークマが掲げる「総合一貫した “ものづくりサービス” を通して、世界中のお客様の価値創造に貢献する」という企業理念にも通じています。

オークマの匠

金属工作機械組立工

川村 勇次YUJI KAWAMURA

1984年
(株)大隈鐵工所(現オークマ(株))入社
2009年
あいちの名工に選出
2020年
卓越した技能者(現代の名工)に選出
2021年
黄綬褒章を受章
川村 勇次 YUJI KAWAMURA