旋盤/複合加工機難加工で得た技・知見を
お客様の生産技術向上に

歴代最年少で「現代の名工」に選出

2012年11月、オークマに嬉しいニュースがもたらされました。NC旋盤の技能工として数々の難加工をこなし、国内外で機械の納入据付・試運転・操作指導にあたってきた大藪伊佐男が、当社5人目となる「現代の名工」に選出されたのです。しかも数値制御による金属加工部門で歴代最年少(50歳)の快挙でした(当時)。
選出の理由は、旋盤加工で最も困難とされる細長軸や薄肉形状の加工における卓越した技能(例:直径7mm×長さ150mmの細軸加工でΦ0.05mmの寸法精度を確保。直径100mm、肉厚1.5mmの薄いワークを真円度30µm以内に加工)を保有していること。そして、その技を存分に発揮し、NC旋盤の納入前の試験加工や納入後の製品加工・指導を通じて、お客様が抱える加工精度の向上やサイクルタイム短縮などの課題解決に貢献したこと。さらに、中央職業能力開発協会の中央技能検定委員、海外研修会の講師などを務め、技能者の育成に尽力したことも高く評価されました。

新たな加工法や熟練のノウハウとともに
オークマ機を提案

トップマイスターの一員となった大藪が、新人の頃に大きな刺激を受けたのが、納入機の据付に訪れた客先で目にする複雑形状や厳しい公差に挑む技能工たちの姿でした。
「材質に応じた工具の選定方法、難しい形状の加工法や加工手順を見て、こんな工具や治具を使うのかと驚き、あんな加工をやってみたいと発奮しました。そして、一つ技を身につけると別のワークで応用してみる。そうやって徐々に難しいワークに挑戦し “加工時間・加工精度・工具寿命” をバランスよく成立させる技能を追い求めました」。
そう語る大藪の記憶に鮮明に残るのが、エンジンのシリンダブロックに収める鋳鉄製の円筒部品「シリンダライナ」の加工です。
この重要部品は高速で動くピストンとの気密性を保ちつつ滑らかに往復させるため真円度30µmの加工精度を求められます。発注元では機械加工だけでは真円度を達成できず、旋削後に熟練工がワークをたたいて微調整するとのこと。こうした後加工を削減できれば生産性を大幅に向上できます。
大藪は、加工手順や工具、切込み量や送りなどの切削条件を試行錯誤し、決して諦めずトライ&エラーを繰り返しました。そして、4台の機械で工程を分け、ようやく目標の真円度を達成したのです。
「オークマ機の成約に結び付いた喜びはもちろんですが、旋削だけで完結させる加工法を確立した達成感、そして何よりお客様の笑顔が格別でした」と当時を振り返ります。
このようにマイスターの卓越した技能や加工ノウハウとオークマ機の性能が相まって、お客様の加工精度や生産性向上に貢献した事例が数多くあります。

加工現場の声を製品開発に活かし、
技の応用力を次世代に

お客様がオークマ機を評するうえで常に上位を占めるのが「高剛性・高精度」、そして「機械の使いやすさ」です。その基盤となっているのが、社内外の加工現場で集めた生の声を積極的に採り入れる文化です。
マイスターの大藪も新機種や新たな制御装置の開発時には、開発・設計部門から「部品加工の立場から改善要望を出してほしい」と要請され、機械への寄り付き、工具交換しやすい各種装置の配置、プログラムの入力法など経験に裏打ちされた改善ポイントを提案し採用されてきました。
このようにオークマ機の1台1台には「使う人最優先の視点」から生まれた工夫が反映され、あらゆる機種でシリーズを重ねるごとに使いやすさを進化させています。
ただ一方で、プログラム作成の容易化や機械の高精度化によって、機械操作のハードルが低い時代だからこそ「クラフトマンシップと技能の継承」が極めて重要です。「ものづくり加工道場」で社歴5~10 年の技能系社員のスキルアップを担当する大藪もこの点を力説します。
「私は国内外で150件以上の機械やシステムの据付を経験しましたが、量産機などは現地で実際に量産してみると、加工寸法のバラつきなどの事象も発生します。そうした場合に迅速に調整するには、身につけた技能を応用する力が不可欠です。そのため加工道場では、自動化された部品工場で使っている加工プログラムをあえて手組みさせるなど、自己完結できる技と応用力を鍛えています」と。

アジア地域のものづくりレベル向上にもひと役

オークマのマイスターたちが力を注ぐのは自社の後継者育成だけではありません。業界の第一人者として、国家技能検定の検定員や課題の作成にも携わり、海外研修会の講師として派遣される例も珍しくありません。
大藪も海外向けの機械据付・操作指導の豊富な経験を買われ、アジア各国で教育研修の講師を務めました。たとえばシンガポールでは、大学の実習機としてオークマ機が採用され、加工プログラムの作成から実加工まで2週間にわたって教員を指導しました。
また、ベトナムでは日本の国家技能検定に相当する制度導入に向け、中央職業能力開発協会に協力要請があり、大藪はその講師としてホーチミン市に出張。職業訓練校の指導員およそ40名に、工作機械(他社製)のプログラム作成から実加工、さらに国家検定の採点基準の作成まで指導しました。
オークマでは、今後もこのような機会を通じてアジア地域におけるものづくりレベルの向上に少しでも役に立ちたいと願っています。

オークマの匠

数値制御金属工作機械工

大薮 伊佐男ISAO OYABU

1980年
(株)大隈鐵工所(現オークマ(株))入社
2009年
あいちの名工に選出
2012年
卓越した技能者(現代の名工)に選出
2019年
黄綬褒章を受章
大薮 伊佐男 ISAO OYABU